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[5] トリノ空港

トリノ空港へ到着して、最初にあるのはもちろん入国審査だ。

自分以外の参加者がスムーズに通過していく横で、案の定税関職員に止められた。

『これはなんだ?』

『何でできているんだ?』

そう、例の大きな木箱である。

『FRP製の車のデザインモデルです。』

と言ったが、

職員は箱を傾けたり、揺らしたりしながら、しまいには、

『これを開けろ。』

といわれる始末。

だが、開けろとは言われても、釘で打ち込んで蓋をしているようなしろもの、

どうしてそこまでしなければいけないのかとも疑問に思ったが、

しかしいくら説明しても最終的には、

『開けろ!』

の一点張り。

そこで、わざわざ釘を抜き、蓋を開けて、モデルのひとつを取り出してみた。

揺らせばカラカラとFRPや接着剤の屑が鳴った。

するとまた今度は、

『これはなんだ。』

と押し問答が始まる。

結局、タイヤをはずして渡すと、中をがさごそといじりだす。

粉のようなカスが出てくるわけだが、それを見て今度は、

『こっちも見せろ。』

と、もうひとつの木箱も開けさせられるはめになるのであった。

その当時、私はどうしてこんなに厳重にチェックするのかまったくわかっていなかった。

それは、もうおわかりだとは思うが麻薬の取締りである。

美術工芸品などの中へ、巧妙に隠す手口などと同じだと思われていたのである。

当時の私にとってはまったく想像もしないことだった。

そうこうしているうちに他の参加者は問題なく税関を通り、バスに乗り込んでずっと待っている。

私が乗らないとバスは出発できないし、滞在先のホテルへも行けない。

それが申し訳ないというか、格好が悪いというか、

1時間くらいが経ち、待ちくたびれ果てたみんなのもとへ、ようやく合流できたのである。

この出来事が、トリノで私が受けた最初の洗礼であった。

決して格好のよい、スマートな始まりではなかった。

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